架空の編集者日記

都内にある架空の編集部ではたらく、架空の編集者の日記

土産話未満の土産話

編集者という仕事は、著者や撮影現場へ、差し入れを準備することが多い。だからこそ、休み明けに、編集部に持っていく郷土土産ではどうにも奇をてらいたいと思っていた。思っていたんだよ、昔は。

3度目の正月土産に選んだのは、30個で1000円たらずのちいさな饅頭。値段と個数のコスパはいうまでもなく、小分け包装であることが選択の決め手となった。質ではない、要は気持ちなんだよと自分に言い訳をした。

編集部用のコスパ菓子とは別に、男性部員のG氏に、郷土の日本酒を頼まれていた。銘柄は一任されたが、神経質な彼は僕の土産を自分の好みと照らして批評をするきらいがあった。彼は純米大吟醸を好むことを覚えていたので、あまり吟味せずに、純米と書かれたラベルのそれを選んだ。 

それでも、喜んでくれたら嬉しいと思う、ある種のコスパの良い善意を捨てきれないでいる。

また明日より、編集部の穏やかでない日々がはじまる。オチもない、最初の日記だ。